マジパンをご存知でしょうか?マジパンとはアーモンド粉末と砂糖を混ぜ合わせたお菓子のことです。ヨーロッパではそのまま食べられることも多いポピュラーな洋菓子です。他に、例えばドイツではシュトーレンの中に必ずマジパンが入っています。日本ではケーキデコレーションなどの用途でよく利用されています。今回は、伝統的なお菓子であるマジパンの基礎知識と使い方についてご紹介いたします。

シェフパティシエ 中村 和史

1986年ホテルオークラ東京入社。
デリカテッセンに並ぶペストリーのほか、レストランやご宴会・ウエディングなど館内で提供される洋菓子全般を担当。
シェフパティシエ就任後は「伝統と革新」をテーマに、お客様に喜ばれる洋菓子を提供すべく、日々研鑽を重ねている。


マジパンの基礎知識

マジパンとは

マジパンは粉末に挽いたアーモンドと砂糖、卵白などを混ぜてペースト状にかためた洋菓子で、マルチパンとも呼ばれます。日本では、マジパンはそのまま食べられることは少なく、主にケーキの飾りのための人形を作る際などに使用されます。ケーキのかざりに用いられるマジパンは、ねっとりとした食感がありますが、ヨーロッパではザクザクとした食感のものもたくさんあります。

マジパンの歴史

マジパンは、スペイン語ではマサパン(mazapán)、ドイツ語ではマルツィパン (marzipan)、英語ではマージパン(marzipan)といった具合に、国によって呼称が異なります。日本での呼び名は英語のマージパンが由来とされていますが、いったいどのように始まり、ヨーロッパに広く伝わったのでしょうか。

マジパンの発祥は10世紀頃。砂糖とアーモンドが入手しやすくなった中東で作られるようになったといわれています。当時は、冠婚葬祭の際に食べるお菓子として親しまれていました。

マジパンがヨーロッパに伝わったルートとしては2つの説があります。一方は東ヨーロッパを経由してドイツ全土へ伝わったとする説、もう一方はイベリア半島のアンダルシア地方(スペイン南部)を経由してイタリアのシチリア島へ伝わったとする説です。
どちらのルートで伝わったのかは明確にはなっていませんが、いずれにしても中世ヨーロッパでは、貴族の宴会の席でマジパンが食べられていました。

北ドイツのリューベックは最もマジパンが親しまれている地域の一つです。リューベックでは、15世紀頃、街が飢饉に陥った際に、倉庫に大量に残っていたアーモンドをパンのように成形して人々に配った、というエピソードが残っています。その出来事をきっかけにリューベックではマジパン作りが盛んになったのだそうです。


マジパンの使い方

マジパンはそのまま食べたり、飾りとして使ったりするだけではありません。マジパンの使い方について、種類の違いをふまえてご紹介いたします。

マジパンの種類

マジパンは大きく2つに分類することができます。
一方は、「マジパン」という主に細工用として使われるマジパンです。マジパンは砂糖とアーモンドを1:1の割合で混ぜて作ります。もともと日本ではあまり知られていませんでしたが、SNSを中心に「マジパンアート」という名前で人気が高まっています。
もう一方は、「ローマジパン」という主に焼き菓子などに混ぜ込んで使用するマジパンです。こちらは、砂糖とアーモンドを1:2の割合で作ります。ローマジパンは生地のしっとり感を出したり、風味をアップしたりする際に用いられます。

世界におけるマジパンの代表的な用途

マジパンが使用される代表的な用途としては、クリスマスに食べるドイツの伝統菓子、シュトーレンが挙げられます。マジパンがシュトーレンの中に入れられるのです。
ドイツでは、イエス・キリストの降誕を待ち望むアドヴェントの期間(11月30日に最も近い日曜日からクリスマスイブまでの約4週間)にゆっくり時間をかけてシュトーレンを食べる習慣があります。
ドイツのシュトーレンはレシピが法律で定められているほど厳格なのですが、その条件の一つとして「マジパンが入っていること」が定められているほどです。
シュトーレンにマジパンが入っているのは、法律で定められているからという理由だけではなく、より美味しさを楽しめるからという理由もあります。
マジパンの水分生地になじんで、熟成させた時のしっとり感が増すこと、甘味とアーモンドの風味が増すこと、コクが出ること、時間が経つほどマジパンが熟成されしっとり美味しくなることがその理由です。

マジパン細工を作るときに気をつけたいポイント

乾燥に注意する

マジパンは乾燥してしまうと、硬くなってぽろぽろと崩れやすくなってしまいます。着色し終わった時に色ごとにラップに包んでおけば、乾燥を防ぐことができます。この時、マジパンが空気に触れないように、しっかりとラップを密着させるのがポイントです。

事前に作りたい形をデザインしておく

マジパン作りは時間をかけてしまうと作っているうちに乾燥してしまいます。そのため、あらかじめ作りたい形のデザイン画を描いておいたり、配色をメモしておいたりするとスムーズです。マジパンの着色は、市販の着色料の他、シロップやチョコレート、ジャムなどを用いることもあります。シロップでコーティングすると発色が良くなり、見栄えもよくなります。

道具を使って細かい部分を表現する

キャラクターの作成時などは、細かいパーツの作成が必要になります。この時、爪楊枝や竹串などを使用すると細かい作業が行いやすくなります。また、製菓用品店などでは、マジパン細工に便利なマジパンスティックも販売されています。

マジパンを触り過ぎない

マジパンを成形するときに、指先で触りすぎてしまうと指の跡や指紋が付いたりして見栄えが悪くなりがちです。マジパンを扱う際には、手のひらや指の腹など面を使うときれいに形作ることができます。

不純物が入らないようにする

マジパンに不純物が入らないようにするのも重要です。マジパンには粘着性があるため、注意が必要です。次の点に気を付けましょう。

・調理前にはしっかりと手を洗う
・手にフィットするビニール手袋を着用する
・作業を中断する際には、マジパンにラップをかける

マジパンを活用してワンランク上のお菓子作りを

日本のマジパンと言えば、アーモンドプードル、砂糖、卵などを混ぜ合わせ、人形や動物などの形を作りケーキの飾りとして主に用いられています。
しかし、ヨーロッパでは焼き菓子の生地に混ぜ込んだり、可愛らしいフルーツ細工菓子などを作ったりと、マジパンが主役のお菓子が作られています。
シンプルながら奥深いマジパンをケーキ作りの隠し味として、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。

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